H打君はいろんな経験のある大工で、最近の新建材の家が嫌いな男で、野遊びの達人だ。
彼といっしょに川釣りに行くとよく釣れるのである。
丁度良かったので、小屋の補修方法を相談しつつ日頃思っている疑問をいろいろと尋ねてみた。
「壁に粘土を塗りたいんだけど木が腐らないかな?」
「通気性があって粘土が濡れても乾くような構造にしておけば大丈夫です。」
「なるほど。厚さはどれぐらいまでいけるかな?」
「ただの土でも2,3ミリくらいなら塗ることができるから、粘土ならもっと大丈夫。」
「そうか。じゃこの小屋の穴ほげのところに粘土を塗ってもいいだろうか?」
「うーん・・・・・・・・僕は昔、墨壁を塗ったことがあるんですが、その時は、ニカワを湯煎しながら煤を混ぜ込んで、何人かで塗っていくんです。ニカワは冷めると固くなるので、冷めないように容器をお湯につけながら塗ってましたね。
粘土を直接壁に付けると、雨で濡れた時が心配だから、何か膜になるような、そういうニカワと墨を混ぜたようなものがあるといいんでしょうが・・・」
「あ、そうか!ニカワか、ニカワならあるよ。」
と、話は意外な方に進み、とりあえず、ニカワを溶かしてみることに。
ペンチでニカワを細かく切って、カップに入れ、水を注いで湯煎してみる。
「お、溶けてきた!溶けてきた」
「それで、これを何かガーゼのような布に浸けてから、貼り付けてみたらどうでしょうか。」
ぺたん、ぺたんと貼り付けてみるとなかなか良い感じである。
「これで乾いたら硬くなりますよ、補強にもなると思います。」
・・・・で、翌日。
乾いたニカワ布はガチンガチンになっていた!
やったー!
という訳で、小屋板壁補修計画も、解決の方向性が見つかり、これからどんどん進んでいくのだ。
ちなみに、ニカワはバイオリンを作る時に接着剤として使うそうである。硬化に時間はかかるが、高い接着力と、部材への浸透性が弦楽器作成に最適らしい。
ウチの小屋も弦楽器クラスになったということで、大変うれしい。
そうゆうことで、ニカワ布をピタピタと貼っていると、とても気持ちが充実する。
このような、自然物由来のニカワとか、柿渋、とかで、作業するときの何とも言えない清々しさは不思議に心を落ち着かせるのである。
「すまんなあ、長いことほっといて」
と小屋に謝りつつペタペタと貼るのである。
このあとは煤の代りに、柿渋と煤を混ぜた「渋墨」というものを布に塗り、(ニカワは親水性があるそうなので、煤を混ぜたほうが水に強くなるのでは)その上に寝かしておいた粘土を付けていく計画。
ちなみに、冒頭のきれいな写真は、ニカワを入れたビンにお湯を注いだ時のもの。
剥がれて溶けてゆくニカワの膜に、小さな泡がいっぱい付いて、それはきれいで、不思議な景色だった。